なんでもよくおぼえてる

人生はからっぽである

雨水の鉄の矢にお前を刺し貫かせよ

 朝、起きたら、空が真っ青だった。そろそろ今年の梅雨も終わりだ。
 昨日は休日出勤していて、でもけっこう暇だったので、15時ごろから窓の側のデスクに陣取って、西の方角から雷雲が近づいてくるのをずっと見ていた。薄暗い雲の間から、黄色の稲妻が光って、まったく自然は圧倒的だ。見ていて飽きない。雨は激しく降って、まもなく上がった。 
 雨が上がってからは、2000枚ほどあるバラバラになった連番書類を、番号順に並べるという、非常にエキサイティングでやりがいのある作業をして退社した。こういうときに、働く喜びを感じる。単純作業はすばらしい。

 今日は、ひさびさのお休み、洗濯を3回して、本の整理と掃除をして、粗大ゴミにカーペットを出して、ポテトサラダとコールスローを作ってから、3時間ほど昼寝をして、洋服屋からの、予約をしていただいてたセーターが届きましたよ、という電話で起こされた。そんな予約をいつしたんだろう、このくそ暑いのにセーターとは、触るのも見るのも嫌なので、そのうち行きます、と言って電話を切ったら、窓の外はもう日が暮れかかっていた。急に心細くなった。

 そんなわけで7月はじめの頃の日記。

 7月1日(火)
 ずっと使っていたVAIOが壊れたので、Macを買うことにした。壊れたのかどうか知らないが、動かないので壊れたんだろうと思う。そこを突き詰めて追求するのは面倒くさく、もう10年も使ったのだからもういいだろうというような気持ち。
 今まで数ヶ月もこの日記を書かなかったのは、VAIOが動かなかったことが原因で、わたしが怠慢なわけではないんです。
 会社の帰り、夜になっても蒸し暑い御堂筋をズンズン南下してapple storeに入って1分で何も迷わず、これください、とMacBookを指差したせいか、店員は、ええっもう買うんですかと、本当にびっくりしていた。こういう客はよっぽど珍しいのか、少しご説明いたしましょうか、などと言っていたが、説明などどうでもよいので、梱包してもらって、黒門市場に寄って、刺身と豆腐を買って、家にかえった。近所の神社で祭りがあって、見知らぬ浴衣姿の人々がうろうろしていて、綿菓子とか持って、何だかみんな楽しそうだった。わたしは、とにかく暑くて、お腹がすいて、ビールが飲みたくてたまらなかった。

 10年ぶりくらいに開くMacはやっぱり使いやすくて、買ってよかった。
 Macを手に入れてからも数日日記を書かなかったのは、やっぱりわたしが怠慢なせいかもしれない。

 届いた『みすず』7月号を読む。

 7月2日(水)
 十三で『闇のあとの光』を観た後、難波周辺をうろうろして、ジュンク堂でルイジ・ギッリ『写真講義』を手に取って、本全体のつくりが美しすぎて、こりゃあ辛抱たまらん、という気持ちのまま、レジに直行、買ってしまった。まったくみすず書房には、毎月毎月、やられっぱなしだ。
 その後、引き続き日本橋をうろうろして、最近時々のぞく中古DVD屋で、『永遠のモータウン』と『美しき諍い女』を発見した。この店では好きな映画のDVDをものすごく安価で見つけていて、時々のぞくのだが、この前は、アダルトの部屋から、マンションの上の階に住む家族の、旦那の方がひとりでのっそり出てくるのに出くわして、挨拶しないほうがいいのかなと思ったけど、ついいつもの癖で、こんにちは〜、と無邪気に言ってみたら見事に無視されたという一件があり、いろんなものを発見するのもいいけど、まあ善し悪しだなあ、と思ったりした。アダルト観たっていいじゃないか、こそこそしないで堂々と生きろ。

 久しぶりに観た『永遠のモータウン』には、やっぱり泣かされた。この映画に出てくるミシェル・ンデゲオチェロが、優しくて力強くてかっこ良くて可愛くて、本当に素晴らしいのだ。

 7月8日(火)
 東大阪で打ち合わせ、その後、夜は会食。面倒だ。何が面倒と言って、人にビールを注いだり、注がれたりしなければならないこと。うまい酒は手酌に限る。でもまあ会食で酒の旨さをどうこう言っても仕方ない。
 この日は、とにかくひどい湿気でありながら風がビタとも吹かないサウナ状態、同行していたK本さんが、一緒に歩いていたのにどんどん遅れていくので、大丈夫ですかあ、と振り返ったら、お風呂上がりかと思うほど全身グタグタに汗をかいていて、かわいそうになって、ドトールで休むことにした。
 K本さんが、店で一番冷房のきいた席でぐったりしている間、私は、カフェオレをすすりながら、買ったばかりの『群像』8月号を読む。『群像』は滅多に読まないのだけれど、一挙掲載された多和田葉子さんの『献灯使』を早く読みたくて。でもすぐ読むのはもったいないので、しばらく寝かせ、とりあえず、特集『個人的な詩集』を読んで、これもけっこう楽しんだ。

悩み忘れんと 貧しき人は唄い
せまい露路裏に 夜風はすすり泣く
小雨が道にそぼ降れば あの灯り
うるみて なやましく
あわれはいつか 雨にとけ
せまい露路裏も 淡き夢の町 東京

 サトウハチローの『夢淡き東京』の一節。いいなあ、としみじみしていたら、隣の席で珈琲をすすっていたおばちゃんが、急にバッグから巻き寿司を取り出して、食べ始めたのには唖然とした。透明パックに入った巻き寿司、全国津々浦々のドトールに行ったが、巻き寿司食べてる人は初めて見たなあ、やっぱり東大阪ワンダーランドやな、と思っていたら、汗から復活したK本さんが、ほなそろそろ行こか、というので、席をたった。
 会食は21時には終わり、近鉄電車に乗って市内に帰った。近鉄奈良線沿いの外の景色が妙に新鮮で、見つめ続けていたらすぐ地下に入ってしまった。また近鉄電車に乗って、どこかに行きたいものだ。

 お腹が空いてきたので、今日はここまで。今からとん平焼きと冷奴で、ハイボールを飲もう。