なんでもよくおぼえてる

人生はからっぽである

壁際の金木犀

休日。8時くらいまでぐっすりと寝る。むくっと起きたら、空は曇天。せっかくの休みなのに、布団を干せなかった。終日ずっと曇りで、時折思い出したようにパラパラと雨が降る。厚めのスカーフを巻いていた記憶があるので、きっと少し寒かったのだろう。
部屋のかたづけをザッとしてから、でかける。休みとなると、天気がどうあれなかなか家にじっとしていられない。
谷六にあるうどん屋さんで、鶏のささみフライと釜揚げうどんの定食を食べる。それから、キミドリで家具を見る。この店では、ごはんを食べたり、書きものをする時に使っている古い和裁机を買った。この日もよさそうなキャビネットや本棚があったが、すべてsoldoutだった。今の目当ては、ソファの横に据えて、読みかけの本や珈琲を置いたりするテーブルなのだが、まだめぐり合えない。
傘を振り回しつつ歩いて、天満宮で古本を見る。雨で平日のせいか、人影まばらだ。でも、さんざん買い荒らされた後の、わたしからすると駄本ばかりの100円均一台にたむろして、それでも4〜5冊買っている、何を生業としているのかよくわからぬおじさんたちを見て感心する。
こんな光景も久しぶりに見る気がする。精神状態がバラバラの頃は、落ち着いて古本を見ることもできなかったし、もう二度とできないのではないかと思ったが、今はわりとできるようになった。並んでいる本を見て、何が書いてあるんだろうとワクワクできるようになった。数年前のわたしのように。しかし、あの頃と今の自分は徹底的に何かが違うのだ。それは、良いことでも悪いことでもない。わたしは何も悔やんだりはしていない。
古本市では望月市恵訳の『魔の山』(岩波文庫)を上下巻半額で購入した。『魔の山』は未読で、というか、昔、途中まで読んで挫折したのだ。しかし、今なら読めるだろう。何しろ、わたしは変わったし、退屈なものを楽しめる力がついた。
それから中之島の国際美術館まで行く。もう閉館だから、と止める警備員を振り切って中へ入り、ヴィルヘルム・ハンマースホイ展のチラシをもらう。警備員は不審者と思ったのか中までついてきたが、ミュージアムショップにいるわたしを確認して安心したのか、また戻って受付の女の人と嬉しそうに話をしはじめた。地下のロビーにいると、吹き抜けのエスカレータ部分から夕方の薄明るい光が下りてきて、それを眺めながら、ソファに座って歩き疲れた足を伸ばしていると、気持ちよくて居眠りしそうになった。
出入橋できんつばを買って、梅田から地下鉄で帰宅。今日もよく歩きました、合格。夕食は、冷やごはんをつかったチキンライスと昨日の残りの白ワイン。夜は、それまでは止んでいた雨がふたたび降る。